このミステリーがすごい 1991。 このミステリーがすごい!

『このミステリーがすごい!』大賞 » 第9回『このミス』大賞 1次通過作品 立読み

このミステリーがすごい 1991

概要 [ ]• 賞金として大賞作品には1200万円が、優秀賞作品には200万円が贈呈される。 1次選考に進んだ作品や最終選考に残り受賞を逃した落選作の中に、編集部が「賞をとれなくても作品にしたい」という原稿を発見した時に与えられる『隠し玉』という宝島社賞(編集部推薦賞)を設けており、中には映画化された作品もある。 受賞作と隠し玉は全て宝島社から出版される。 出版時期は大賞作品は翌年の1月、優秀賞は2月から5月頃、隠し玉は5月以降である。 隠し玉以外でも最終候補作が出版されることがあり、宝島社以外からの出版もある。 2017年は15周年記念企画としてこれまでに落選した応募作の中から選ばれた3作品を超隠し玉として刊行した。 募集対象として「を第一義の目的とした広義の」を掲げている。 1次選考は紙で行われるが、2次選考からはフロッピーディスクやCD-Rなどの記憶媒体が必要となる。 第18回より、最終選考作品の中から大賞・優秀賞とは別に動画配信及びテレビ放送でのドラマ化を前提とした作品を選ぶ『・賞』を新設。 しかし、第17回の最終選考作品の中に、ぜひ映像化したい作品があったことにより、17回よりサプライズ受賞という形での受賞となった。 選考委員 [ ]• 最終選考• (第1回 - )• (第1回 - )• (第19回 - )• (第1回 -第15回)• (第1回 - 第18回)• 2次選考• (第1回 - )• 村上貴史(第1回 - )• (第16回 - )• 茶木則雄(第1回 -第15回)• 1次選考• (第1回 - )• 膳所善造(第1回 - )• 古山裕樹(第1回 - )• 村上貴史(第1回 - )• (第5回 - )• 宇田川拓也(第8回 - )• (第8回 - )• 土屋文平(第11回 - ) 受賞・最終候補作一覧 [ ] 特記がなければ、初刊は、文庫は刊。 回(年) 応募数 賞 受賞・最終候補作 著者 初刊 文庫化 第1回 (2002年) 163編 金賞 『』 2003年1月 2004年1月 銀賞 読者賞 『逃亡作法 TURD ON THE RUN』 2003年4月 2004年3月 優秀賞 『沈むさかな』 2003年3月 2004年6月 隠し玉 『』 2003年5月 2004年5月 最終候補 『熱砂に死す』 島村ジョージ 『俄探偵の憂鬱な日々』 第2回 (2003年) 170編 大賞 『』 2004年2月 2005年1月 優秀賞 読者賞 『』 2004年2月 2005年2月 最終候補 『昭和に滅びし神話』 横山仁 『愛は銃弾』 島村ジョージ 『葡萄酒の赤は血のかほり』 浜田浩臣 第3回 (2004年) 202編 大賞 『』 2005年2月 2007年6月 『』 2005年2月 2007年1月 最終候補 『血液魚雷』 2005年9月 『パウロの後継』 深野カイム 『オセロゲーム』 サワダゴロウ 第4回 (2005年) 182編 大賞 『』 2006年2月 2007年11月 特別奨励賞 読者賞 『』 2006年3月 2008年5月 最終候補 『ツキノウラガワ』 多々忠正 『カメラ・オブスキュラ』 真仲恭平 『週末のセッション』 2012年6月 『人体愛好会』 第5回 (2006年) 268編 大賞 『』 2007年1月 2009年3月 優秀賞 『』 2007年2月 2009年6月 『』 2007年6月 2009年5月 最終候補 『オーレ・ルゲイエの白い傘』 黒澤主計 『野蛮人のゲーム』 阪東義剛 『大地鳴動し 霊山咆哮す』 平野晄弐 『偽りの夏童話』 卯月未夢 第6回 (2007年) 229編 大賞 『』 2008年1月 2009年10月 優秀賞 読者賞 『呪眼連鎖』 2008年12月 2009年11月 隠し玉 『』 2008年5月 2009年9月 最終候補 『』 2011年5月 2013年8月 『彷徨える犬たち』 第7回 (2008年) 278編 大賞 『』 2009年1月 2010年2月 『』 2009年1月 2010年3月 優秀賞 『』 2009年2月 2010年4月 優秀賞 WEB読者賞 『』 2009年3月 2010年5月 最終候補 『GoB』 第8回 (2009年) 350編 大賞 『』 2010年1月 2011年3月 『』 2010年1月 2011年1月 優秀賞 『』 2010年2月 2011年5月 隠し玉 『』 2010年5月 『』 2010年7月 最終候補 『』 2011年2月 『太陽に向かって撃て』 森山五丈 第9回 (2010年) 408編 大賞 『』 2011年1月 2012年1月 優秀賞 『』 2011年3月 2012年3月 『』 2011年5月 2012年5月 最終候補 『ホークウッドの亡霊』 高山深雪 『』 『ハナカマキリの変容』 2013年10月 第10回 (2011年) 394編 大賞 『』 2012年1月 2013年1月 優秀賞 『』 2012年3月 2013年3月 隠し玉 『』 2012年8月 『』 2012年8月 『』 2012年8月 『』 2012年8月 最終候補 『空と大地と陽気な死体』 『鋼鉄の密林』 塚本和浩 第11回 (2012年) 473編 大賞 『』 2013年1月 2014年2月 優秀賞 『』 2013年2月 2014年4月 『』 2013年3月 2014年4月 隠し玉 『』 2013年8月 『残留思念捜査 オレ様先生と女子高生・莉音の事件ファイル』 2013年8月 最終候補 『ポイズンガール』 藍沢砂糖 『梓弓』 堂島巡 第12回 (2013年) 457編 大賞 『』 2014年1月 2015年1月 『』 2014年1月 2015年2月 隠し玉 『二万パーセントのアリバイ』 2014年8月 『泥棒だって謎を解く』 2014年8月 最終候補 『ホテル・カリフォルニア』 『幸せの戦略』 志門凛ト 『勇者たちの挽歌』 小池康弘 第13回 (2014年) 427編 大賞 『』 2015年1月 2016年1月 優秀賞 『いなくなった私へ』 2015年2月 2016年2月 『』 2015年3月 2016年3月 隠し玉 『』 2015年8月 『殺し屋たちの町長選』 2015年7月 最終候補 『風俗編集者の異常な日常』 安藤圭 第14回 (2015年) 414編 大賞 『』 2016年2月 2017年1月 『』 2016年1月 2017年2月 優秀賞 『』 2016年3月 2017年5月 隠し玉 『』 2016年7月 『』 2016年7月 最終候補 『ヘリオス・フォーリング』 『南の島に物語が降る』 木村一男 第15回 (2016年) 449編 大賞 『がん消滅の罠 完全寛解の謎』 2017年1月 2018年1月 優秀賞 『京の縁結び 縁見屋の娘』 2017年3月 『県警外事課 クルス機関』 2017年3月 隠し玉 『』 2017年4月 『愚者のスプーンは曲がる』 2017年4月 『小さいそれがいるところ 根室本線・狩勝の事件録』 2017年7月 超隠し玉 『ホテル・カリフォルニアの殺人』 2017年8月 『陽気な死体は、ぼくの知らない空を見ていた』 2017年8月 『僕が殺された未来』 2017年8月 最終候補 『沙漠の薔薇』 薗田幸朗 『変死区域』 田内杏典 第16回 (2017年) 464編 大賞 『オーパーツ 死を招く至宝』 2018年1月 2019年1月 優秀賞 『自白採取』 2018年2月 『カグラ』 2018年2月 隠し玉 『三度目の少女』 2018年8月 『本所憑きもの長屋 お守様』 2018年8月 最終候補 『生態系Gメン』 等々力亮 『千億の夢、百億の幻』 薗田幸朗 第17回 (2018年) 449編 大賞 『怪物の木こり』 2019年1月 2020年1月 優秀賞 『盤上に死を描く』 2019年2月 U-NEXT・ カンテレ賞 『』 2019年8月 隠し玉 『キラキラネームが多すぎる 元ホスト先生の事件日誌』 2019年7月 『クサリヘビ殺人事件 蛇のしっぽがつかめない 』 2019年7月 『勘違い 渡良瀬探偵事務所・十五代目の活躍』 2019年7月 『偽りの私達』 2019年7月 最終候補 『砂塵のサアル 血の復讐』 澤隆実 『ライク・ライカ』 朝倉雪人 『セリヌンティウス殺人事件』 小塚原旬 第18回 (2019年) 502編 大賞 『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』 歌田年 2020年1月 優秀賞 『君が幽霊になった瞬間』 朝永理人 2020年3月 U-NEXT・カンテレ賞 『』 2020年2月 隠し玉 『ガラッパの謎 引きこもり作家のミステリ取材ファイル』 久真瀬敏也 2020年6月 隠し玉 『犬の張り子をもつ怪物』 2020年7月 最終候補 『わたしの殺した力士』 走水剛 『フィオレンティーノ』 平島摂子 『偽者江戸川乱歩』 野地嘉文 『闇だまり』 雨地草太郎 映像化作品 [ ] 映画 [ ]• 『』 テレビドラマ [ ]• 系バラエティー「」内再現ドラマ• 上甲宣之『』(『このミステリーがすごい! 』大賞10周年記念 10分間ミステリーに収録)• 系「」• 「このミス」大賞ドラマシリーズ• 登美丘丈 『』• 『』 関連作品 [ ]• 『このミステリーがすごい! 四つの謎』(、2014年12月5日、) このミステリーがすごい! 大賞を受賞した作家が書き下ろした短編小説集。 2014年12月29日、系列で『』のタイトルでドラマ化作品が放送。 『タード・オン・ザ・ラン』改題• 「東山魚良」から改名• 『果てなき渇きに眼を覚まし』改題• 「古川敦史」から改名• 『スロウ・カーブ』改題• ()刊• 『チーム・バチスタの崩壊』改題• ()刊• 「伊薗旬」から改名• 『シャトゥーン』改題• 『暗闘士』改題• 「高山月光」から改名• 「拓未紀司」から改名• 『明治二十四年のオウガア』改題• 幻冬舎文庫• 『臨床真理士』改題• 『霊眼』改題• 『快楽的・TOGIO・生存権』改題• 『バイバイ、ドビュッシー』改題• 『カバンと金庫の錯綜劇』改題、文庫化に伴い『パチンコと暗号の追跡ゲーム』に改題• 「彼此屋圭市」から改名• 『鬼とオサキとムカデ女と』改題• 「古井盟尊」から改名• 『災厄の季節』改題• 『有機をもって恋をせよ』改題• 『羽根と鎖』改題• 第10回の隠し玉として出版• 『ハナカマキリの祈り』改題• 『エンジェルズ・シェア』改題• 『僕がお父さんを訴えた理由』改題• 『また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』改題• 『Sのための覚え書き かごめ荘事件のこと』改題• 第9回応募作『森のくまさん-The Bear-』改題• 『殺人画家は、私です』改題• 第15回の超隠し玉として出版• 『下弦の刻印』改題• 『或る秘密結社の話』改題• 『石の来歴』改題• 『オレ様先生』改題• 『真相を暴くための面倒な手続き』改題• 『ボクが9歳で革命家になった理由』改題• 「八木未」から改名• 『生き霊』改題• 『正邪の獄』改題• 第15回の超隠し玉として出版• 『夢のトビラは泉の中に』改題• 『八丁堀ミストレス』改題• 『キラーズ・コンピレーション』改題• 「加藤笑田」から改名• 『ザ・ブラック・ヴィーナス』改題、文庫化に伴い『天才株トレーダー・二礼茜 ブラック・ヴィーナス』に改題• 文庫化に伴い『サブマリンによろしく』に改題• 「大津ミツオ」から改名• 『病の終わり、もしくは続き』改題• 『救済のネオプラズム』改題• 『縁見屋の娘』改題• 『クルス機関』改題• 「森岡伸介」から改名• 『パスワード』改題• 『小さいそれがたくさんいるところ』改題• 第12回応募作『ホテル・カリフォルニア』改題• 第10回応募作『空と大地と陽気な死体』改題• 「田中圭介」から改名• 第13回応募作『未来人がきた! 』改題• 『十三髑髏』改題• 「水無原崇也」から改名• 「くろきとすがや」から改名• 小説投稿サイト「エブリスタ」にて公開されている。 『その男、女衒』改題• 『模型の家、紙の城』改題。 「歌明田敏」から改名• 「泡沫栗子」から改名• 『ユリコは一人だけになった』改題• 「貴志祐方」から改名 出典 [ ]• 宝島社. 2017年10月18日閲覧。 2010年11月26日. 2015年10月5日閲覧。 宝島社. 2017年10月18日閲覧。 2015年10月1日. 2015年10月6日閲覧。 等々力亮. 2018年8月9日閲覧。 株式会社blueprint. 2019年12月13日. 2020年1月22日閲覧。 2019年10月1日. 2020年1月22日閲覧。 2019年6月10日. 2019年6月18日閲覧。 com. 2014年12月7日. 2014年12月10日閲覧。 関連項目 [ ]• 外部リンク [ ]•

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チャイルド44 森に消えた子供たち

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第18回『このミス』大賞 1次通過作品立ち読み 闇だまり 『闇だまり』 雨地草太郎(あまち・そうたろう)28歳 1991年生まれ。 長野県生まれ。 観光施設職員。 プロローグ 夏のその日は 教室で咳き込んだら、血の混じったつばがノートに飛んだ。 日本史の教師に見られて、すぐに早退させられた。 私は国道につながる橋をよろよろ歩いていた。 すれ違う人がみんな私を見た。 アザだらけの顔と切り傷だらけの足を晒しているから仕方ない。 さっき、男の人が声をかけたそうにしていた。 けれど結局歩き去った。 満身創痍の女子中学生に近づいて、あらぬ疑いをかけられたくなかったのだろう。 国道を右手に折れて坂道を下った。 歩くだけで涙がにじんだ。 ガラスを踏んだ足の裏が痛かった。 胸の奥深くや肩のあたりも鈍くしびれた。 正面に自宅が見えた。 ツタの這う、黒ずんだ家だった。 柱は弱り、床は軋み、階段はやたら急角度の古い家屋。 私は重たい戸をスライドさせた。 砕けたガラス、破れた戸、倒れた家具はそのままだった。 三日前、父と繰り広げた死闘の痕跡。 あれから父は帰ってこない。 私にも母さんにも、荒れ果てた家を元に戻す気力はなかった。 「母さん、ただいま」 廊下の奥に声をかけた。 返事はない。 いつものことだ。 私はスリッパを履いてガラス片の上を通った。 左手に居間がある。 倒れた戸を踏んで入ったら、黒いかたまりが映った。 母さんの頭だった。 台にべしゃりと顔を押しつけている。 「母さん、起きられたんだ」 何も返ってこない。 転がり落ちたテレビをよけて回り込む。 母さんの右足は本来曲がるはずのないところまで曲がっていた。 父にやられた怪我だった。 「母さん……」 言いかけて、初めて気づいた。 台に突っ伏している母さんの、胸のあたりからポタポタと何かが垂れていた。 瞬時に血だとは理解できなかった。 慌てて母さんの肩を掴んだ。 母さんの右手は胸に向かっていた。 掴んでいたのは包丁で、心臓に突き刺さっていた。 背中から先端が覗いている。 手を離すと、母さんはあっけなく横に倒れた。 もう、すべてが手遅れなのは明らかだった。 涙があふれてきた。 私は座り込んで、じくじくと疼く傷と一緒に、しばらく母を見つめていた。 第一章 再会 ドリルの回転を止めて、ゴーグルを外す。 設計図通りに穴を開け終えた。 旋盤から金属板を外す。 鉄の焦げた匂いがした。 それもすぐに、油やシンナーの臭気でかき消されていく。 見上げるような機械の間を通って作業台のところへ行った。 「剣 けん さん、できました」 そのまま係長に部品を渡した。 「おう。 時刻は午後五時になろうとしていた。 今日は残業もなく帰れる。 ロッカーからほうきを取り出すと、自分専用の旋盤の周りを掃く。 金属加工が私の担当なので、金屑が大量に出る。 緑に塗られた床も傷だらけで黒いひび割れが目立つ。 さっさとかき集めてちりとりに乗せると、外の廃棄スペースにシュートしておしまい。 ちょうど終業のベルが鳴った。 定時組が掃除に入る。 私は一足先に更衣室に入った。 まだ稼働中の機械がごうごうと音を立てている。 工場内では大声を出さないと、まともな会話もできない。 音楽は一応かかっているのだが、出入り口付近まで行かなければほぼ聞こえない。 作業着をハンガーにかけて薄手のデニムジャケットを羽織る。 この会社の作業着は上しか指定されていないので下は自由だ。 私はホームセンターで買った安物の作業用ズボンを使っている。 意外に柔軟性があって着心地がいい。 「お疲れー」 着替え終わったところに、同僚の森山が入ってきた。 彼はすぐ視線を逸らして奥へ行く。 加工現場の女は私だけで、更衣室が同じなので気まずいのだ。 着替えといっても一番上の服を変えるだけだから、恥ずかしがる必要もないのだが。 「今井は今日、飲みに行くのか?」 「行かないですよ。 最近筋トレサボり気味なので、帰ってランニングです」 「真面目すぎだろ。 アスリート目指してんのかよ」 「そうじゃないですけど、なまると不安になるので」 「よくわかんねぇな」 「ま、個人的な事情ってやつです」 「そっか。 週末だから忙しくなるって」 「よし、じゃあ俺、今日は〈アリア〉に行くわ」 「莉衣に手を出したらねじりますよ?」 「何を」 「何かをです」 笑いかけたが、引かれた。 「それじゃ、お先です」 私は更衣室を出てタイムカードを押した。 「お先に失礼します」 作業台で図面と向き合っている剣さんに近づいて声をかける。 剣さんは上体を起こした。 百八十センチの長身だ。 百六十センチの私は見上げなければならない。 「ああ、お疲れ。 気をつけて帰れよ」 「また残業ですか?」 剣さんは鋭い目をさらに細める。 「残念ながらな。 どうも先週組んだ金型だと大きなバリが出るらしい。 これからバラして修正だ」 「私のやった部分じゃないですよね」 「関係ないから安心して飲みに行け」 「さっき森山さんにもそう言われましたけど、私ってそんな飲んだくれに思われてるんですか?」 「温泉街に出入りしてるのは事実だろう」 「飲まない日も多いんですけどね。 莉衣を迎えに行くだけで」 「一人で歩いてる女はあそこだと目立つからな。 そのせいじゃないか?」 「ですかねえ」 じゃ、と手を挙げて私は工場を出た。 夕空は真っ赤に染まっていた。 〈松田精工〉という社名のプレートも夕日に反射していた。 秋が本格的に始まろうとしている。 二ヶ所ある駐車場のうち、道路を渡った方に向かう。 中古で買った青のインプレッサに乗り込む。 エンジンをかけたら、ACIDMAN アシッドマン の「新世界」が爆音で流れ出してビクッとした。 そういえば今朝は眠かったので大音量で聴いていたのだ。 眠たい朝はハードな曲がいい。 恋愛とは関係ない歌詞だとなお良い。 私の趣味に合っている。 発進して農道を抜けていく。 この時期は、夕日とススキのコントラストが美しい。 稲にも実が入り始め、頭が下がってきている。 ボコボコの農道を出て広い通りに入ったら、あとは流れに乗っていけばいい。 何度か十字路を曲がって、およそ十分。 アパートに到着した。 築二十七年、家賃の安さ以外に取り柄のない部屋が私の城だ。 階段を上がって最初の部屋で立ち止まる。 カギを開けると人の気配がした。 「ただいま」 「あ、礼奈 れいな おかえり。 今日はけっこう早かったね」 「簡単な加工しかなかったから。 ホントはいつもこのくらいに戻ってきたいんだけどね」 「わたしの見送りに?」 「それもある」 同居人の鎌原 かまはら 莉衣が着替えている最中だった。 ショートパンツにポンチョブラウス。 うっすら茶色に染めた髪が白い服とよく似合っている。 「もう出る?」 「うん。 礼奈はどうするの?」 「今日は久しぶりに体動かしたいんだよね。 迎えだけ行くよ」 「わかった。 じゃあまた連絡するね」 着替えを終えると、莉衣は軽く手を振って部屋を出ていく。 1Kの部屋に一つのテーブルとテレビ、ベッド、タンス。 他にはあまり物が置かれていない。 私も莉衣も派手な買い物はしないタイプだ。 時計を見ると、六時を回っていた。 私はジャージに着替えてアパートを出る。 歩道を少し歩いたあと、ゆっくり走り始める。 残業続きでランニングも滞りがちだ。 本当なら毎日しておきたいが気力がない。 それでも腹筋、腕立て伏せといった筋トレだけは遅くなってもやっている。 私は体がなまるのが怖い。 父のような暴漢に襲われても返り討ちにできるような女でいたい。 その思いが私の体を動かす。 今は長時間走っても息が上がらなくなってきた。 けれど無理はいけない。 ただ負荷をかけるだけでは筋肉が成長しない。 適度に休ませて、その上でまた走る。 住宅街を抜けて川沿いに出る。 ここはランニングコースにしている人が多い。 見晴らしもよく、風の吹き具合も絶妙。 走るには最高の環境だ。 私は大橋の向こうについた、温泉街の照明に目をやる。 莉衣はあの中で働いている。 ネットではアングラ温泉街とも呼ばれている、治安の悪いあの場所で。 危険は多いが、給料もまずまずだ。 普通にアルバイトするよりは儲かると莉衣が言っていた。 いくらもらっているのかまでは訊いたことがないが、私より多いのか少ないのかは気になるところだ。 次の橋が近づいてきた。 河原にグラウンドがある。 私は道を外れてそこへ下りていった。 ベンチがあるので、座って休憩する。 いくらか呼吸を整えたら同じルートを引き返すのだ。 暗い空をぼうっと見つめる。 ……今年も、行かなかったな。 ふと、そんなことを思った。 ページ: 1.

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『このミステリーがすごい!』大賞

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手術を受けたいなら全財産の半分を差し出せと放言する天才外科医・天城雪彦は、東城大学医学部でのスリジエ・ハートセンター設立資金捻出のため、ウエスギ・モーターズ会長の公開手術を目論む。 『ブラックペアン1988』『ブレイズメス1990』を続くから連なる「ブラックペアン」シリーズが完結。 医局長に指名された世良雅司は、高階権太・講師と天城の対立に巻き込まれながらも公開手術を終えると、新入医局員を迎える。 そのなかに、若き日の速水晃一がいた。 速水は初日から遅刻する一方、すさまじいスピードで外科手技をマスターしてゆく天才だった。 ウエスギ・モーターズの上杉会長は公開手術を断るが、天城が行う医学生の講義へ出席する。 そこで、5年生の彦根新吾が天城に食ってかかる。 そんな中、佐伯病院長は大胆な病院改革をぶち上げる。 高階講師と藤原婦長がタッグを組み、反旗を翻す。 国際心臓外科学会の公開手術では、天城のピンチを高階が救う。 反目する2人ではあったが、患者を救うという使命感を帯びていた。 一方、桜宮市ではデパートで火災が起き、多数の怪我人が東城大学病院へ搬送されていた。 留守番の速水は、血染めの白衣を身に纏い現場の指揮を執る。 天城はスリジエセンターをオープンできるのか。 高階が起こした反乱に翻弄される佐伯外科の運命は。 そして、日本の医療の未来はどうなるのか。 ソ連が崩壊した1991年冬、すべてが新しい方角へ向かって動き始める。

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